2号にわたりCVTについて話をしているのですが
前号では雑談的な話が多すぎて
本号では残りを一気に解説する為に
内容を詰め込む羽目になりました。
オマケに文章量も半端ではなく
何の為に2部構成にしたのか解らない位
多くなりました。
バランス良く割り振り出来れば良いのですが
資料を漁って、訂正を加える度に書き漏らしていた事が
見つかる物で申し訳ありませんが御容赦下さい。
では本題に入ります。
トラクションドライブCVTはオイルの『せん断力』で
動力を伝達する為、高面圧下で高いせん断力を発揮する
特殊なオイルが使われます。
用語解説
剪断(せんだん)とは四角い物を平行四辺形に変形させる力の事
トラクションドライブCVTにおいて
大きな動力を伝達させようとすれば
ローラーの半径を大きくするか、押し付ける圧力を高めて
ロスを減らす必要があります。
しかし、ローラーの半径を大きくすると
そのまま機構の巨大化に繋がります。
機構が巨大化すれば車輌全体のデザイン的な
変更も求められ必然的に現在主流の
コンパクトカーには搭載不可になります。
また、圧力を高めようとすれば、
それに耐えうる剛性を備える素材が必要で
現状として高い剛性を持つ素材は重い素材。となります。
重い素材を使うと稼働させるのに
多くのエネルギーを必要とします。
思い通りに事が進まないのがこの世の常で
高い剛性を持ち軽い素材=高価な素材で
ホイホイと気軽に使う事が出来ませんし
既存の鋼材に何度も熱処理を加えたり浸炭処理を施して
強度を増そうとすれば作業工程が増え
結果的に製造コストが高くなります。
製造コストの増加はそのまま価格に響く為、
他社との競争に不利になります。
幾らCVT搭載でも他の車より
飛び抜けて高価になれば売れる訳ありません。
おまけに高圧を発生させる為により多く
エンジン出力を消費する事になります。
上記の点が有る為、以前は安価なコンパクトカーには
装置の小型化が容易なベルトCVTが
搭載される傾向がありましたが
トラクションドライブCVTは大排気量用。等と
定義づけする訳にもいかず
よりコンパクト・より軽く。を基本概念に置かねば
多様な車輌に搭載出来ません。
此処で、もう一度おさらいをしましょう。
トラクションドライブCVTは油膜を介在して
動力を伝える機構です。
大きな動力を伝える為には
ローラーの半径の巨大化(機構自体の巨大化)と
駆動圧力を高める方法がある。
しかし、上記の二点は基本概念に反し
汎用性に欠ける為出来れば取りたくない。
じゃあ、どうするのか?
上記の圧力を高める方法は
押し付ける力を高めてロスを減らすと言う事でした。
油膜を介在させるのだから滑るのは当たり前です。
滑らないように高圧でローラーを押し付けてやれ!
と言う理論ですが、高圧を発生させる為には
エンジン動力を沢山使う事になる。
じゃあ、オイルを見直すしか無いなぁ。
滑り難いオイルを使えばどうだ?
と言う事になる訳です。
しかしオイルは各部を潤滑する為に
使う物で、潤滑し難いオイルとは
ただの粗悪オイルと言う事になります。
そんな物を使って金属ローラーを高圧で
押し付ければどんな事になるか
誰でも解る事です。
動力伝達する時は滑らなくて他の時は
なめらかに潤滑出来るオイルは無いかなぁ。
ファ〜ア。(←あくび)あぁ眠てぇ。
と開発者が言ったか否かは解りませんが
こんな寝言の様な物を現実に造ってしまう処が
現在の科学の素晴らしい点です。
トロイダルCVT等のトラクションドライブに
用いられるオイルをトラクションオイルと言います。
このオイルは、潤滑時は低粘度ですが、
高い圧力が掛かる等の一定の条件下で
高粘弾性を発揮する点が特徴です。
その仕組みを簡単に説明すると
オイルの分子が突起をもった構造をしており
低圧力時にはバラバラに配置されている
分子が高圧時には自動的に整列し互いに絡み合って
一枚の弾力の有る板の様な感じになり
動力の伝達を可能にするという訳です。
一枚の板と言っても仮想的な話で
物理的な板では無いので金属と接触して
摩耗を促進させるという事もありません。
動力伝達だけなら極めて簡単な話で
ローラーを直接接触させれば一番ロスも少ないのは当然ですが
それが出来ないのは上記でも説明しました。
伝達しないと駄目だが保護も同時にしないと駄目。
ローラーに何かを介在させる必要があるが
物理的な物ではそれ自体が摩耗する為使えない。
動力伝達油という物は昔から有りますが
従来の伝達油を使用する機械と
CVTとは当然機構自体が違うので使えません。
CVTの一番の利点は無段変速と言う処に有るわけで
それを為し得るには専用の油の開発が不可欠でした。
資料を参照すると
このオイルの分子構造を考案した
出光興産の人は
マジックテープからヒントを得たらしいです。
マジックテープからオイルの分子構造に関連付ける
頭脳とそれを実現する技術力は驚嘆としか言えませんね。
しかし、上記の私の説明にもある様に
自動的に整列し互いに絡み合って・・。と有りますが
そんな事がどうやって出来るのか?
自動的に・・・。この言葉を聞いて
そんな都合の良い事が出来る訳無い!と
一蹴する前に思い出して下さい。
以前紹介したZnDTPも
同じような働きをする成分で
シリンダー軸受け・ライナーなどの面に付着し、
加重が極端に加わった時、
その金属と反応し特殊保護膜合金を形成し、
直接金属同士の接触を避け、
エンジンの焼き付きや摩耗を防止します。
この場合も荷重が掛かった時に自動的に
合金を形成しますね。
自動と言っても静止状態で変化を起こす訳ではなく
一定の環境下で一定の作用を示すという事です。
これ自体は別に難しい事ではありません。
ヤカンに水を入れて熱すれば
水が蒸発するのは誰でも解りますね。
これは水を熱して沸点に達したという一定の条件下で
水蒸気に変わるという一定の変化が起きている為です。
沸点に達した処で、何か手を加える訳でもなく
放置しておけば自動的に蒸発が始まりますね
しかし、熱源や電源は一切不要で、
水を入れて放置するだけで自動的に熱を持ち
ボコボコと湯が沸いて、
更に何度でも同じ事が出来るヤカンを作れ。
となると恐ろしく難しく、それこそ一蹴する話ですが
一定の条件下で一定の作用を示す事は簡単です。
(その条件を整えるのが難しい場合が多い)
ZnDTPと大きく違うのは
このオイルの分子が効果を発揮した後
また元に戻るという可逆性を持つ点です。
可逆性と言っても完全な可逆は
車として地球上を走り回る限り
熱や異物の混入等が分子に影響を与えるので
半永久的に効能を発揮するという事は
有りませんがそれでも実用に耐えうるだけの
能力を保持出来るまでに至りました。
この他に車は構造上、多数のオイルタンクを設置出来ない為
一つの油で複数の役割をカバーする必要もあります。
トラクションオイルも御多分に漏れず
動力伝達の他に油圧システムの作動油
(CVT機構は高圧で作動させる為、此処で大きな労力を使う)
クラッチ摩擦材・ベアリング・歯車等の潤滑も行います。
以上の使用理由から動力伝達力が高いだけでは無く
粘度特性・転動疲労寿命・摩擦材との摩擦係数・
酸化安定性・消泡性・対摩耗性・対焼付き性
樹脂系材料との適応性、と様々な性能が求められます。
このようにトロイダルCVTのトラクションオイルは
ATFやベルトCVTに比べ、
非常に多くの性能と機能を要求され
動力伝達の要として最重要部品の1つです。
資料によるとCVT機構自体は1877年にアメリカの
ハント氏が二つのディスクの間に円盤を置き、それを傾斜させて
変速させる特許を出願しているのが最初の様です。
それから1920年第に本格的な開発が行われた
フルトロイダルCVTは48万kmもの走行実験まで
行われたのですが結局市販車には採用されませんでした。
何故、48万kmも走行テストをしておいて
実車に採用されなかったのか?
何故、其処までテストを重ねたのに採用を凍結したのか?
と言う一番知りたい情報は残念ながら資料で見つける事は
出来ませんでした。
CVTの技術や構想自体は約100年近く前から
有る物ですがそれを実車に採用する為に
新たに特殊なオイルを構築する等
CVTの要としてオイルが重要な役割を果たしています。
このように最先端技術を集結して作り上げたオイルに
只、潤滑性能やその他の単一的な特性だけを上げる
物を入れたら当然本来の性能に影響を及ぼします。
前述したようにCVT自体が発展途上であり
開発メーカー自体が、多数の専門家を交えて
日夜性能向上に努力し、その成果として
著しい速度で性能が向上している機構です。
ユーザーが市販の添加剤をポィと投入しただけで
飛躍的に性能が上がれば楽で結構なのですが
残念ながらそんな簡単な物ではありません。
上記の点から、安易な考えで多くの添加剤が謳う
各部の保護云々、もしくはフィーリングの変化
と言う文句をそのままAT・CVTに
適用させようとして添加するのは
あまり利が有る行為では無いと思われます。
まぁ、フィーリングの変化という謳い文句に関しては
まともに走っていた物が、ガッコン・ズッコンと
不快な動作をする事も正真正銘の変化ですので
あながちウソでは無いですが
それは望ましい結果では無いと思います。
特にトラクションドライブ機構は
高い面圧を掛けて初めて機能する物で
理論上では機構間はトラクションオイルが介在する
流体潤滑状態と言う事になりますが
(トラクションオイルなので正確には弾性流体潤滑状態)
あくまでもこれは理想論の話で当然油膜が切れた場合、
金属同士の接触も起こります。
上記の点や常時高圧を受ける箇所である事を考慮して
ローラーやディスク等の材質自体に長時間浸炭を施した
耐超高面圧材料(超硬質素材)が使われております。
それを考慮すると、わざわざユーザーが保護云々と
手を加える必要自体有りません。
また、添加剤を入れる大きな要因の一つとして
挙げられるのがオイル寿命の延長ですが
ATF・CVTF共々、それ自体が長寿命を誇る
物であり、現状以上に寿命を延ばしても
大して経済的メリットが無いと言う事にもなります。
添加剤を独断で投入しても利が無いどころか
不利益を被る可能性がある。と言うのがAT・CVTです。
特にこの機構が壊れるとまともに車が走らなくなり
修理費用も馬鹿になりません。
エンジン用オイル添加剤は皆様も御承知の通り
市場が既に飽和状態で同じ土俵で戦っても
採算が期待出来ないメーカーが
新天地を探して暗中模索している状況です。
新しい箇所に着手するのは企業として
正しい姿勢ですが現時点でそれに追随するのは
人柱と成りかねないので注意が必要ですので
賢明な方は安易に飛び付かず静観するのが
宜しいかと存じます。
現在のように入れても入れなくても・・。
と言う効果では無く、そのうち
目を見張るような効果が期待出来る時になってから
使用するのが一番では無いと思います。