今回はモリブデンについてお話しさせて頂きます。
長くなりましたので2部構成でお届けします。

さて、皆さんもモリブデンと言うと有機モリブデンとか
二硫化モリブデンとか聞いた事有るな。と言う方も
居られるでしょう。

モリブデンって何だ?と言う読者の方の為に
簡単に説明させて頂きますと
作用原理は、まず、金属表面への吸着・
そして化学反応により、分解、生成した二硫化モリブデン被膜の
低せん断性により摩耗を低下させる効果が認められています。

用語仮説)剪断
せん断(剪断)とは、四角いものを平行四辺形に
変形させる力のかけ方のこと。 (Wikipedia出典)

二硫化モリブデンが潤滑性を示す原理は
二硫化モリブデンの分子構造が層状固体潤滑剤に分類され
この層状固体潤滑剤の特徴は
層内の分子結合が非常に強く層間の結合は非常に弱いと言う
点で、これに垂直に加重が加わると
剥がれるように劈開します。

用語解説  へき開
衝撃を加えたり一定方向からの加重によって
決まった面で割れる性質。
原子が規則正しく並んでいる物質に見られる。

解り易い例としてハンバーガーを思い浮かべて下さい。
何層も肉やレタスが挟んである物が良いですね。
あれを食べていると
いつの間にか上と下のパンの大きさが違っていたり
真ん中の肉がズル〜っと出てきたりしますよね。
このズルーっとなるのは層間の結合が弱い為です。

しかし、食べている最中にパン自体がズル〜っとずれて
上のパンが二枚に分解したとか
中の肉が剥がれて2枚になったと言う事は絶対にありませんね?
これはパンや肉の結合が強い為で噛む程度の圧力では結合が
破壊されない為です。

これが二硫化モリブデンでは層内の結合という事になります。
ハンバーガーの場合はパンと肉等の結合など
無いに等しいのですが
二硫化モリブデンの場合もこの層間の結合力が
ファンデルワールス結合と言う非常に弱い結合なのです。

二硫化モリブデンも複数の層になっており
正にハンバーガーのような構造です。
パンや肉の部分が破断すると当たり前ですが
分子結合が破壊される為、二硫化モリブデンでは
無くなってしまいますが
このパンや肉に該当する部分が二硫化モリブデンでは
イオン結合という非常に強固な結合で容易に壊れる事はありません。

用語解説  イオン結合
陽イオンと陰イオン同士の静電引力による結合で
陽イオンは+の電荷 陰イオンは−の電荷を持ち
双方が引き合う事により生じる結合で結合力は強い。
この結合によって形成される結晶がイオン結晶と言われる。

ファンデルワールス結合とは分子間引力と言って
理論的に説明するのは、すごく難しく
辞書や専門書の下りをサラリと触れただけでは
下手をすると余計解らなくなります。

此処で淡々と説明すると、感動的な文字数になりますし
端的に説明出来る程、私に知識が有れば良いのですが
何となく解るが本当は如何な物か?と言う感じで
他人様に説明するのも憚られるレベルです。

まぁ、とりあえず、数ある結合の中でも
非常に弱い結合だという事は確かです。

簡単に言うと「ただ、何となく結合している」
という感じで倦怠期の夫婦のような結合ですかね。
そんな結合力だから、いとも簡単に結合が解かれるという訳です。

さて、此処迄に一体どれ程の人が読み飛ばした事でしょうか?
まぁ、そんな事はさておき本題に入りましょう。

基本的にオイルに使用されるモリブデンは
油溶性の物が使われます。
油溶性という点でオイル及びオイル添加剤には
有機モリブデンがよく使われます。

さて、有機モリブデンと一口に言っても
その中でも種類があり何モリブデンなのか?
と言うのがネックになってきます。

大体、以下の物が主流なので
以下の二つに絞った内容とさせて頂きます。
MoDTP(ジアルキルジチオリン酸モリブデン)、
MoDTC(ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン)

MoDTPは成分中にリンを含み
MoDTCはリンを含みません。
リンは排ガス除去装置の触媒を犯す為
MoDTCがよく使われております。

まぁ、そうは言っても両方とも硫黄を含むので
それが水分・燃焼によって生じる熱等と
反応して硫酸を生成します。

現在では燃料に含まれる硫黄を極力削減して
サルファフリーを謳う燃料を提供する会社が
増えてきた為、エンジン内で硫酸が生成される。
と言うと、どこから硫酸の原料になる硫黄が供給されるのだ?
燃料のサルファフリーが主流に為りつつある現状を理解していないのか?
と言われるのですが、燃料ではなくオイルから硫黄が供給されるのです。

しかし、それをクローズアップして、エンジン内で硫酸が生成されれば
触媒が犯されて性能が低下し、有害なガスをまき散らしながら
走れば大問題になるし腐食性が非常に高いのでエンジンも壊れてしまいますよ。
等と宣っているサイトもありますが、そんな馬鹿な話はありません。

オイルメーカーも当然その事は承知済みですし
オイルも添加剤も減硫黄化の方向で動いています。

しかし、誤解されている方が多いのですが
硫黄を減らして環境問題に対応しました。
リンを減らして触媒に優しくなりました。
と言う謳い文句を見聞きすると
何でもっと早く削減しなかった?
減らせるなら数ppm以下とか良く解らん事を言わずに
さっさと含有率を0%にすれば良いのに。
と言う方が非常に多いのですが大きな間違いです。

硫黄に限らず、オイルに含まれる添加剤は必要だから
入っている訳で、有る成分の採用を見送る、或いは含有量を削減すると
当然、代替成分を探すか、問題を先送りして放置する事になります。

現に、硫黄を削減したサルファフリー燃料では
ディーゼル車等では分配型燃料噴射ポンプ・噴射ノズルの
極度な摩耗に因る機械の寿命低下及び噴射能力の顕著な性能低下、
更に、水分混入時のトラブルリスクの増加が報告されています。

これは燃料による潤滑性能が低下した為ですが
なぜ硫黄を除くと燃料潤滑性が低下するのか?
というのが諸説あり、明確には判明していないようです。
この問題については次号以降でお話しします。

このように、何かに悪影響を及ぼすから取り除く、
採用を見合わせる。と言うような短絡的な発想は
なかなか通用しないのが実情です。

今回はモリブデンの基本的な事について
触れました。

次号ではオイル添加剤としてモリブデンを
用いる際の諸注意をお伝えする予定です。