さて、前号の続きのモリブデン後半です。
忘れた方はオイル添加剤四方山話を御参照下さい。

いきなりですが本編に入ります。

エンジン内のカム等の動弁系では、その構造上、
低速回転時・油温が高い時等に
流体・境界潤滑の両方が起こる混合潤滑領域になります。
このような状況下でモリブデンは摩擦調整剤として
非常に有用な作用を果たします。

御存知の方には退屈ですが用語解説をさせて頂きます。

流体潤滑と境界潤滑という言葉ですが
流体潤滑は部品と部品の間にオイル等の潤滑剤が介入し
部品同士が直接接触する事を防いでいる状態で
理想的な潤滑環境です。

これとは逆に境界潤滑は介在している潤滑剤が
高圧力が掛かるなどの何らかの理由で排除され、
部品同士が直接衝突する場合がある状態です。
この場合は部品の摩耗が促進されます。

摩擦調整剤(FM Friction Modifier)には
無灰系FM・有機モリブデン系FMが使用されます。

無灰系FMは長鎖アルキル基を持つエステル・アミン等が
有り、金属表面に吸着し金属同士の直接接触を防ぐ事により
摩擦係数を低下させます。

MoDTC等の有機Mo系FMは
境界潤滑部で二硫化モリブデンの結晶を生成し
摩擦を低減します。

国内ではMo系FMの研究が積極的に行われてきましたが
MoDTCは油中の添加剤やベースオイルの質に依り
大きく性能が左右され、中には殆どFMとしての効果が見出せない
組み合わせも存在します。

以前のメルマガでもサラリと振れたのですが
モリブデンは添加する量に比例して効果が現れるという
単純な物ではないと言う事です。

この辺をお話しさせて頂きますと
MoDTCを摩耗防止剤のZnDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)
及び硫化油脂等の硫化化合物と併用すると
摩耗・摩擦防止低減の相乗効果が得られます。
特にZnDTPはその反応生成物の皮膜が
二流化モリブデンの金属内部への拡散を阻害する為
大変効果的だと言えます。

その逆に金属系洗浄剤を入れると
概して摩擦低減効果を妨げる傾向を示します。

この、金属系洗浄剤というのは別に特別な成分ではなく
清浄分散剤として普通にオイルに使用されています。

清浄分散剤については金属系洗浄剤と無灰分散剤が有り
金属系洗浄剤には
スルホネート・フェネート・サリシレート等があります。

無灰分散剤には
コハク酸イミド・ベンジルアミン・コハク酸エステル等があります。
この辺についても次号以降で説明させて頂きます。

更に、この金属系洗浄剤の種類や塩基価によって
阻害の程度が異なります。

用語解説 塩基
酸の水溶液が示す物性を酸性、灰汁などソーダの水溶液が
示す物性をアルカリ性と呼んだ(「アルカリ」はアラビア語の灰に由来する)。
酸性物質とアルカリ性物質とを混合すると、
双方の性質を打ち消しあうことが知られており、中和反応と呼ばれる。
塩(えん)が中和反応の生成物であることが判明してくると、
「酸と中和反応をして塩を生成する物質群」
という物質グループの概念が生まれ、
それに対して塩基という呼称が与えられた。
酸と塩基の間の反応を、酸塩基反応と呼ぶ。
無論、中和反応も酸塩基反応に内包され、
マクロなレベルで酸成分と塩基成分を
混合する操作に対して使用される場合が多い。
興味のない方や既に知っている方にはアクビが出そうですね。
無茶苦茶簡単かつ強引に説明すると、
酸を中和させて塩を作る物が塩基という物ですね。
何でこんな物がエンジンオイルに添加されるか?というと
燃焼によって発生する塩酸・硫酸等の強酸を、それよりは無害な
塩と水に変えてしまおうという訳です。これを酸塩基反応と言います。

ここで混同しやすいので覚えて欲しいのですが
強酸と言うと大変濃度が高く、
金属等をボロボロに腐食しそうなイメージを
持たれるかと思いますが塩酸・硝酸・硫酸は
濃度に関係なく強酸と分類されます。
酢酸や炭酸も濃度に関係なく弱酸と分類されますが
酢酸でも純粋な物は氷酢酸と言われ、腐食性も可燃性もあり
皮膚に触れると激しく反応し火傷します。
しかし、分類上では弱酸です。

逆に強塩基と言うと 水酸化ナトリウム・水酸化カリウム等です。
弱塩基はアンモニア・水酸化カルシウム等です。


興味の無い方は就寝前に読んで頂くと
速やかに眠りに落ちる事が出来る
良い感じの内容ですし別に覚えなくても良いのですが
この辺りをオイル業者及び
複合組成の製品を提供している添加剤業者は把握しているので
当然それに見合った処方を施して製品化していると
言う事だけを覚えて下さい。

後入れ添加剤としてモリブデン単体を投与して
モリブデンの性能を享受する為には
ユーザーがその処方とモリブデンの性質を把握する必要が出てきます。

私見になりますが、そんな事まで考えて
一般ユーザーがモリブデンを投与しているとは到底思えませんし
其処まで考慮している人はモリブデン単体を
後入れ添加剤として選択するとは思えません。

自分のニーズにベストマッチしたオイルにする為に添加剤の成分を
単体で買い揃えていたら膨大な量が必要になり
それに従い個人では到底使い切れない程の添加剤が出来上がります。

勿論、それを製品として売り出すのならば問題有りませんが、
個人で使うなら最初から複合組成の製品を買う方が安上がりで現実的です。

モリブデンの性能を100%享受する為にはそれこそ基油の成分から
含有添加剤まで調べて把握しないと十分に性能を発揮しない為
そこまで手間を掛けてわざわざモリブデンを使うより
さっさと複合成分で構成されている添加剤を入れた方が
早いし楽だし効果も有ると言う事です。
 
暗中模索で作るより
餅は餅屋に任せてユーザーは良い餅屋を探す努力をするほうが
良いという事ですね。