前号では各部でどのような処理が施されているのかを
御紹介しますと書いて締めましたので
今回はピストンについてお話しさせて頂きます。

まず、ピストンですが ピストンスカートと言われる部分が
上下運動する際に首振り運動により、この部分が他の部品と
激しく衝突する事が確認されています。
当然起こりうる事には対策を講じなければ
市場に流す事は出来ない訳で、この部分の低摩擦科の為に
PTFE・二硫化モリブデン等の固体潤滑剤の被膜処理を施す方法や
鉄やスズのめっきを施す方法・ニッケル・リンをめっきする方法があります。

昨今の車はエンジンの軽量化を考慮してアルミ合金が広く採用されており
地金に鉄をめっきすると時間の経過と共にアルミ合金との馴染みが良好になり
摩耗量が減少する特性があるので頻繁に行われています。

ここから一歩進めてニッケル、リン、潤滑性の優れたホウ素を
混ぜた無電解めっきを施すと素材に硬質クロムと同等の高い硬度・
耐衝撃性・耐熱性に優れた処理を行う事も可能です。

以前は固体潤滑皮膜を形成する際にコーティング法が用いられていました。
今でも用いられているのですが、これにはコートする潤滑剤を母材に
接着する為の接着剤が必要でその含有量が全体の半分近くになります。
しかも、慣らし運転後ピストンスカート部ではコーティング材は
殆ど残っていないと資料に示してあるように耐久性の程はどうなのか?
と疑わずには居られない点も有ります。

以前メルマガでも申したように固体潤滑剤自体はメンテナンスフリーが
実現可能な程、耐久性に優れた物が非常に多いのですが
必要な箇所に介在して居る事が大前提で、
潤滑剤を保持する土台が不安定では話になりません。

更に、耐久性を挙げる為に接着剤を増やすと
潤滑性能を著しく下げる要因になります。

そして何よりコーティング量に比例して寸法が変わってきます。

此処が非常に問題で、前述したように慣らし後に接着剤が
剥離してコーティング剤が残って居ないと言う事は
その剥がれたコーティング材の分だけ隙間が生じるという事です。
これは商品の品質低下に直接影響する問題で
更に問題なのは、このコーティング層を施す寸法が取れない程
寸法に余裕がない箇所、もしくは僅かでも隙間が出来ると
如実に性能が低下する箇所は施行出来ません
(これがピストン全面に施工出来ない理由)

これを解決する為に新しく表面改質熱処理技術(WPC処理)を
応用した二硫化モリブデンショット処理が開発されました。

この方法は母材表層部を(この場合はピストン)熱で融解し
二硫化モリブデンの超微細粉末を圧縮空気でスカート部へ
投射して投射部及び表面から約20μmの深度迄に純粋な
二硫化モリブデン層を形成出来る方法です。

特筆するべき点は接着剤を使わない点と純粋な潤滑剤の被膜を
形成し母材の表面を改質する事が出来る為、
寸法や形状変化を伴わない点が有ります。

固体潤滑剤は数μmの皮膜で潤滑作用を発揮し、その被膜が介在する限り
アフターケアは事実上不要で効果を維持する事が出来ます。
勿論、設計施工段階でその機構の寿命が尽きる迄、問題なく
稼働する事を考慮して施工されるので耐久性も申し分有りません。
要約すると機械が寿命を迎えるまで効果を発揮し続けるという事です。

読者の皆さんは、こんな技術論云々より一体どれ程の効果を
発揮するのか?と言う点が一番気になると思います。

このモリブデンショット法を施したピストンをエンジンに組み込んで測定した所
5%のフリクション低減効果があるという結果が出ています。
他の施工法を挙げてみると
モリブデンコーティング(コーティング法による施工)1.4%
ニッケル・ホウ素・リン・三元合金被膜       1.7%
グラファイトコーティング(コーティング法)    1.4%

と言う具合に飛び抜けて成果を発揮している訳です。

注意する点はモリブデンショット法とモリブデンコーティング法は
同じ物をピストンにコートしているのに3倍以上の性能の開きが
生じている点です。

これはコーティング法が先程触れたように接着剤を使う点で
その接着剤の比率が約半分を占める点です。
そして、接着剤が潤滑性能を阻害すると書いたように
ハッキリ言って好ましい物では無く
やむなく使わざるを得ないという物です。

それに比べて高純度で潤滑剤の被膜を形成する事が出来る
モリブデンショット法は潤滑性能を遺憾なく発揮出来る為
その性能に開きが出来るのは至極当然と言えます。

次号ではピストンと同等に性能に大きく関与する
ピストンリングについてお話しさせて頂きます。