前回予告したように今回はピストンリングについて
お話しさせて頂きます。

ピストンリングはパッと見た限り、只の金属の輪を
切ってC型にしただけの物ですが
実は先端技術が施された最重要部品であると言う事を
一体どれ程の方が御存知でしょうか。

まず、基本的な話として摩耗損失という物があり
発生したエネルギーが摩擦という形で
熱や音に変換されて消費され、ロスに繋がります。

その摩擦損失という物がどれ程有るのか?
資料を見てみると

エンジン部分では以下のようになります。
ピストン・コンロッド系 41%
カム等の動弁系     20%
クランク        14%
オイルポンプ       9%
その他         16%

最も、損失が多いピストン・コンロッド系の
低減技術として前述したピストンスカート部の
二硫化モリブデンショット処理等が用いられます。

今回取り上げるピストンリングの摩耗損失率は
エンジン全体の摩耗損失の約25%を占めると
言われており摩耗損失低減の最優先部分です。

 

ピストンリングはシリンダに密着しながら
高速往復運動しているので当然ですが
その摺動面の環境は大変過酷な物になります。

リングの基本的性能を保持しながら
摩耗損失を抑える為に、材質の選別や
様々な表面処理が施される訳です。

さて、ピストンリングの表面処理ですが
現在はクロムメッキを施す処理法が主です。
この方法は安価に製造でき、耐摩耗性等も高く
現在でもピストンリングの主流になっていますが
6価クロムは環境・人体に影響を及ぼす為
水質,大気の環境基準が一層厳しくなっており、
表面処理でも6価クロムフリー化等の動きが顕著です。

今後益々加速するであろうエンジンの高出力化
リング自体の薄幅化に伴い、鋳鉄製リングから、より硬度の高い
スチールリングへの変更が始まりました。

スチールは鋳鉄と比べて摺動特性が悪く、そのままでは
使い難い点と、鋳鉄に比べ様々な表面処理法を施工可能
で有るという点からスチールをリングに用いる際には
表面処理を施す事が常識になっています。

用語解説 摺動 (しゅうどう)
摺動とは物を引きずって・又は滑らせて動かす動作。

摺動特性が悪いと言う事は簡単に言うと
引きずって動かし難い。
無理矢理引きずって動かすと摩耗率が高い。
と言う感じですね。

スチールをそのままリングにしても
全く二進も三進も行かないと言う事です。
それを改善する為に表面処理を施すのですが
その処理の一つに窒化処理という物があります。
窒化とは母材の中に窒素を拡散処理する事により
母材の表面に窒化物を析出させ硬度を上げる技術です。

窒化方法は ガス窒化法・イオン窒化法・塩浴窒化法
等が有ります。
この技術は1980年前半に開発された技術です。

更に近年の高出力化・長寿命化・低燃費化・
排出ガス低減等、様々な要求を満たすべく
1980年後半になると複合分散めっき法が考案されました。

この方法はニッケルーリンめっき浴中にセラミック等の
微粒子を分散させてめっき被膜に硬質微粒子を均一に
分散させる物です。
勿論、分散させる硬質微粒子の種類・粒径等を選択する事で
様々なニーズに対応出来ます。

と、まぁこんな感じで、極めて表層的な部分だけを
サラッと流してみましたが、如何でしたでしょうか。

前回のピストンの件も含めて、長期間安定した潤滑性能を
保持する為には様々な特殊処理が施されるという事だけでも
認知して頂ければと思います。

市販の添加剤によくある、オイル排出後も長期間効能を維持。
と言う売り文句ですが、確かに潤滑に於いて最終的な到達点で有る
『簡単な処置で半永久的な効能』という物は理想ではありますが
容易く実現可能な技術では無い事を御理解頂けたでしょうか。

容易く実現可能ならば、真っ先に自動車製造ラインに
採用されると思いますが、未だに特殊な処理を施す製法に
頼らざるを得ない現状が全てを物語っていると思います。

その事に留意されるだけでも眉唾物を掴む事は
激減するだろうと思います。