前回で化学合成油と一口に言っても種々多様である。と
最後に述べて終わりました。
その中でも皆さんも耳にした事が有ると思われる
エステルについての前置きを説明させて頂きます。

弊社へ寄せられる質問の中に、
エステルオイルやエステル系オイルに添加しても大丈夫ですか?
と言う質問があります。
そこで、此方が何エステルですか?と聞くと
解らない。知らない。エステルって一種類だけじゃないの?
と言う回答が返ってくる事が多々あります。

弊社製品に限って言えば、使用されているオイルは有効成分の運搬
及び溶媒として働けばそれで良く、鉱物油や化学合成油等の油種・
銘柄などは関係無く、後は弊社添加剤が溶解した汚れや無害化した物質を
どれだけ油中に取り込める許容量が有るのか?
と言う点に掛かってくる訳ですので、車両用オイルであれば
何でも良いと言う事になる訳です。

一体何の話をして居るんだ?エステルオイルの話じゃないのか?
と言う御指摘を受けそうなので話を戻させて頂きますと
エステルはカルボン酸とアルコールの組み合わせで様々な分子設計が
可能であり、細かい要求に柔軟に対応できると言うのが大きな利点で
それだけ種々多様な物であると言う事が言える訳です。

エステルと聞くと、分子に極性があり
金属に電気的に吸着して云々と言う話ばかり先行するようですが
それだけがウリではありません。

その他にも鉱物油に比べて下記の特性が有ります。

1  熱安定性・酸化安定性が高い
2  生分解性を有する
3  極性を有する
4  耐候性が高い(寒暖差による粘度指数の変化が小さい)
5  揮発性が低い
6  潤滑性能に優れている
7  低温流動性に優れている
8  引火点が高い(発火しにくい)
9  他の油に配合する事で基油の特性を上げる事が出来る
10 毒性が低い
11 加水分解性が有る(これは欠点だが改善できる)
12 樹脂を膨潤させてしまう(これも欠点だが改善できる)

勿論、上記の特性は先程も申したように分子設計の組み合わせ次第で
その特性を特化させる事も出来ますし不要な特性は抑える事も可能です。

完全無欠な物がこの世に存在し得ないのは世の常で
11・12の項に対策を講じずに潤滑油として使用する事は無理です。
そこで、偉人達が(今でも御健在だと思うが)試行錯誤を繰り返した結果
優れた特性を引き出し、欠点を補う事で実用化に至ったと言う事です。

簡単に優れた点を引き出し、欠点を云々と書いていますが
これは自由度の高い化学合成油だから出来る話です。
鉱物油でも種々の添加剤を添加する事で改善は可能ですが
当然限界があり、生産コストもそれに比例して上昇します。

この点が使う方の趣向による訳で、化学合成油で要望に添う物を作るか
過不足のない性能で良いから鉱油と添加剤という組み合わせで
費用対効果に優れたオイルを選択するか。と言う話になりますので
鉱油が悪くて化学合成油が良いと言う単純な話ではありません。

特に、日常の足として使う。と言うレベルの車であれば
高回転域を多用して疾走する事も、タイヤが異常な潰れ具合を示すような
過積載もありませんから普及品の鉱物油で十分です。

用途を超える性能を付与した物を入れても使う機会が無ければ
何の意味も有りませんし、浪費でしか有りません。

巷の添加剤売り場でも面白いPRビデオが流れています。
稼働しているエンジンからオイルを抜き取り
冷却水も抜いて、更にエンジンに砂を入れるビデオがありました。

『こんな無茶苦茶な話が有りますか?でも、エンジンは廻っています。
凄いですねぇ』と高らかにレポートしている訳ですが
それを見た私が、サーカスじゃあるまいしそんな状況が何時起こるんだ?
と、うっかり言ってしまい、それを聞いていた売り場の人が、
それを言っちゃお終いだよ。あんた。
アレはあくまでもPRだよ。此処まで凄いと示している訳だ。
実際に砂を入れても良いよ。なんて一言も言って居ないだろう?
若いんだから、視野を広く持たなくちゃ駄目だよ。と言われました。

成る程、車上荒らしが頻発している地域で、
金目の物が見つからなかった腹いせにボンネットを開けて
冷却水のパイプを切ってオイルを抜いてガレージの砂を入れる
粘着質な輩が居る所なら役に立つかも知れないねぇ。と言ったら
苦笑いされていました。

そんな皮肉をサラリと言える自分は本当に視野を広めねば為らぬと
痛感した次第ですが、まぁ、過ぎたるは及ばざるがごとし。
と言いましょうか、散々適材適所と言って居るように
使う側のニーズにマッチした物を選ぶのが大事という訳ですね。

これで、終わってしまってはエステルが何なのか
サッパリ解らないと思うので次回掘り下げてお話をさせて頂きます。